試作品が上がってきたら、穴の反対側に細いスジが入っていた——。筐体設計の現場で最も多い相談のひとつが、この「ウェルドライン」です。結論から言えば、射出成形でウェルドラインを完全にゼロにすることはできません。大切なのは消すことではなく、出る場所を設計でコントロールすることです。本記事では発生メカニズム、強度への影響、そして設計段階で打てる7つの対策を解説します。
ウェルドラインとは何か
ウェルドライン(weld line)とは、金型の中を流れる溶融樹脂が障害物などで分岐し、再び合流した箇所に残る線状の跡です。合流する時点で樹脂の先端(フローフロント)はすでに冷え始めており、分子どうしの絡み合いが不十分なまま固まります。
その結果、表面にはV字状の微細な溝(Vノッチ)が残り、光の反射が変わって細いスジに見えます。つまりウェルドラインは、外観不良であると同時に強度低下の起点でもあります。
似た用語にメルドライン(meld line)があります。流れが正面からぶつかるのがウェルドライン、浅い角度で合流してそのまま同方向へ進むのがメルドラインです。後者は合流後も分子の絡み合いが進むため、影響は小さくなります。

なぜ発生するのか — 5つの原因
ウェルドラインの原因は、大きく5つに整理できます。
- 穴・ボス・リブなどの障害物:流れが左右に分かれ、裏側で再合流します。最も一般的な発生要因です。
- 多点ゲート:複数のゲートから入った樹脂の流動先端どうしが、途中でぶつかります。
- 肉厚差による流速差:薄い部分で流れが遅れ、冷えた先端どうしが合流してしまいます。
- 樹脂温度・金型温度の不足:合流時点でフローフロントが固化していると、絡み合いが起きません。
- ガス抜き不良:合流部に空気やガスが閉じ込められ、Vノッチが深くなります。焼け(黒いスジ)を伴うこともあります。
重要なのは切り分けです。前の3つは設計起因、後の2つは金型・成形条件起因。どちらが主因かで、打つべき手の順番が変わります。
強度はどれくらい落ちるのか
ウェルド部は母材部分と比べて引張強度が低下します。低下幅は樹脂によって大きく異なり、特に注意が必要なのがガラス繊維強化(GF)グレードです。
| 樹脂 | ウェルド部の強度(母材比の目安) |
|---|---|
| PC(非強化) | おおむね 85〜95% |
| ABS(非強化) | おおむね 80〜90% |
| PP(非強化) | おおむね 80〜95% |
| POM(非強化) | おおむね 70〜85% |
| ガラス繊維強化グレード(GF30 など) | 40〜60% まで落ちる例もある |
落ち込みが大きい理由は繊維の向きです。合流面では繊維が面に沿って並び、面をまたいで繋がりません。補強効果がウェルド部だけ失われるため、母材との差が大きく開きます。
逆に非強化のABSやPCでは、強度低下より外観の方が問題になりやすい傾向があります。樹脂グレードによって優先すべき対策が変わります。
なお、上記の数値はあくまで一般的な目安です。実際の低下幅はグレード・肉厚・成形条件で変動するため、耐荷重部品では実測による確認が前提となります。

設計段階でできる7つの対策
ウェルドラインは消せません。したがって対策の本質は「移動させる」ことです。金型を切る前にしか打てない手から順に見ていきます。
1. ゲート位置を変える
最も効果が大きい対策です。合流位置そのものを、非外観面・低応力部へ移します。金型設計の初期段階でゲート位置を決める際、意匠面と応力集中部を避けられるかを必ず確認します。
2. ゲートを1点に減らす
ゲートが1点なら、流動先端どうしの正面衝突は起きません。ただし流動長が伸びて充填不足や保圧不足を招くこともあり、トレードオフの判断が必要です。
3. 穴を後加工に回す
高荷重がかかる部位の穴は、成形時は埋めておき後工程でドリル加工する方法があります。障害物そのものをなくすため、確実に回避できます。
4. 肉厚を均一化する
肉厚差が小さいほど流動バランスが整い、冷えた先端どうしの合流を避けられます。ヒケ・ソリ対策としても有効です。
5. リブ・ボスの向きを流れ方向に揃える
流れに対して直交する障害物は分岐を生みます。可能な範囲で流動方向に沿わせることで、分岐そのものを減らせます。
6. オーバーフロー(捨てタブ)を設ける
合流部の先にダミー部を設け、冷えたフローフロントを製品の外へ押し出す方法です。後工程で切除します。
7. シボ・塗装で目立たなくする
シボ(テクスチャ)加工や塗装で線を目立たなくできます。ただしこれは外観のみの対策で、強度は一切改善しません。強度が要求される部位で、この手段に頼らないよう注意が必要です。

では金型が完成した後はどうするか。残る手は樹脂温度・金型温度・射出速度・保圧を上げる、ガスベントを追加する、といった対応です。ただし改善できるのは主に外観で、強度の回復は限定的。バリ・ヒケやサイクルタイム悪化とのトレードオフも生じます。
打てる手は工程が進むほど減ります。だからこそ、設計段階での検討が決定的に重要になります。

設計時のチェックポイント
✅ 外観面とウェルド発生位置が重なっていないか:意匠面に線が乗ると、後から動かすのは困難です。
✅ 耐荷重部・締結部にウェルドラインが乗っていないか:応力集中部との重複は割れの起点になります。
✅ ガラス繊維強化グレードで強度低下を見込んでいるか:母材の物性値だけで設計すると危険です。
✅ 図面にウェルドラインの許容位置・不可領域を指示したか:口頭合意では量産時に守られません。
✅ 流動解析(CAE)でゲート位置を検証したか:金型を切る前が最後の判断機会です。
✅ 合流部にガスベントが計画されているか:ガス閉じ込めはVノッチと焼けを深刻化させます。
✅ シボ・塗装を「強度対策」と誤認していないか:見えなくなっても弱点は残ります。
undermountainができること
当社では、筐体設計の初期段階から成形性・コスト・品質を三位一体で検討し、金型製作後の手戻りを最小限に抑えています。
- 設計初期からのゲート位置・流動検討:意匠面と応力集中部を避けた合流位置を最初に決めます
- AI活用の設計レビュー・仕様書化:ウェルド許容位置の指示漏れなど、チェック漏れを防ぐ仕組み
- 中国工場ネットワークで金型・成形を一貫手配:設計意図を金型側に落とし込み、コストも最適化
- 「試作でスジが出た」段階からの相談対応:設計起因か成形条件起因かの切り分けから支援します
成形品の外観・強度でお困りの際は、抜き勾配や肉厚設計も含めた総合的な視点でご相談ください。
次回予告:「表面処理の選び方(塗装・メッキ・テクスチャ)」